民法改正について
今回の民法改正法案は、債権法についてのものであるが、かなり大幅な改正であることから、実務家としては十分に準備してかからなければならない。消滅時効が原則5年になることや、法定利率が3パーセントを基準にした変動制になることのほか、当事者の意思に基づく契約責任が前面に押し出されたものとなっている。瑕疵担保責任が、法定責任ではなく契約不適合責任すなわち債務不履行責任と位置付けられたことがその典型である。また、契約責任についても、「責めに帰すべき事由」という文言は残ってはいるが、従来の考え方とは違って、手段債務と結果債務という考え方から、手段債務についてはやむを得ない事情により免責されることはあるが、結果債務については不可抗力以外は免責されないことになる。当事者の意思以外に、取引の実情が考慮されることから、当事者の意思解釈といっても、より客観的なもの、規範的なものになっていくであろう。定型定款の規定も新設されたが、定型取引が前提となることから、銀行取引約定書のように定型取引からはずれるものは、従来の約款論にもとづいて解釈されることになる。定型定款の規定については、法案の段階で入ったことから、十分に練られたものでない印象が強く持たれる。
私事であるが、民法改正についてのセミナーにはこれまで積極的に参加してきている。一番参考になったのは、昨年の春から秋にかけて全21回にわたって開催された明治大学の寄付講座である。いろんな教授の講義が聞けて相当勉強になったが、中でも元裁判官の加藤新太郎中央大学教授の講義は出色であった。実務にもとづく話には説得力があり、語り口も軽妙で、一瞬ではあるが落語を聞いているような錯覚に陥った。その話の中で、「民法学を語る」(大村敦志、小粥太郎著 2015年11月初版 有斐閣)の一節を引用して、現在の学生と学説は「別居」状態にあるということが印象に残ったので、さっそく買い求めて読んでみた。なるほどなと思った。司法制度改革によって法科大学院が発足したことで、法学教授たちの仕事の重点は研究から教育へとシフトし、債権法改正の動きが現実化したために、それは解釈から立法へとシフトした。そのため、あるべき法を求めて民法の解釈が更新されていくということが現実離れし始めているということである。確かに、昔の学生時代のように物権変動論を論じることもなくなり、学説の影が薄くなっているような気はする。吉田邦彦北海道大学教授が判例時報(2270号3頁)に寄稿された論説も同様の趣旨であろう。時代の流れと言ってしまえばそれまでであるが、なにか寂しい気がする。最後に、全21回出席して修了証書をもらったことを付け加えておきます。