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中村法律事務所

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裁判官の評議の秘密

これまでずっと疑問に思っていたことがあった。それは、平成19年3月、裁判所法第75条の「評議の秘密」のルールを破り、袴田事件の元主任裁判官熊本典道氏(当時70歳)が、実は無罪の心証を持ちながら死刑判決文を書いたことを公にし、この告白が海外メディアでも大きく取り上げられたことに対し、最高裁が対外的なコメントを控え、沈黙を守っていることである。ちなみに、袴田事件とは、昭和41年に静岡県旧清水市で一家4人惨殺事件が発生し、当時プロボクサーだった袴田巌氏が逮捕、起訴され、死刑判決によって死刑囚(平成26年3月再審無罪により48年ぶりに釈放)となった事件である。

 熊本氏は、司法試験をトップで合格し、裁判官としてエリート街道を進むはずであったが、昭和41年12月に静岡地裁に赴任させられ、袴田事件を主任裁判官として担当したことからその人生は大きく変わることになる。昭和43年9月に言渡された判決について、熊本氏は、審理の後半で無罪を確信し、合義に際して無罪判決を起案したが、裁判長と右陪席を説得できなかったため、結局、怒りに震え泣きながら矛盾に満ちた350枚の死刑判決を書くことになった。せめてもの抵抗として、熊本の印鑑は自ら押さず、書記官が押したが、このとき職を辞す決意ははすでに固まっていた。熊本氏は、昭和44年4月依願退官し、弁護士となった。その後の熊本氏人生は、年収1億円を稼ぐ売れっ子弁護士の時期もあったが、家庭的な問題もさることながら、袴田事件の死刑判決で「私は人殺しも同然です」と自責する重い十字架を背負ったことによって、家族も家も金も失い自殺を試みるまでに転落することになる(その間の詳細については、尾形誠規著 「美談の男」2010年6月 鉄人社をお読みください)。

  ところで、最近、冒頭の疑問に対して丁寧に説明してくれた書籍に接した。元裁判官渋川満氏の近著「裁判官の理想像」(2016年2月 日本評論社 210頁から212頁 )である。要約すると、熊本氏の発言には2つの問題があり、1つは裁判所法第75条の評議の秘密の定めに違反するのではないか、もう1つは合議と裁判官の良心・独立の関係で少数意見の裁判官にとり良心・独立に反しないか、ということである。そして、熊本氏の発言は、評議の秘密の定めに明らかに違反するが、裁判官は一般職国家公務員と異なり、評議の秘密違反行為に罰則の定めも、退職後の秘密遵守義務の定めもない(国家公務員法第2条3項13号、同5項、同第100条1項、同第109条12号)。在官中なら懲戒(裁判所法第49条)または罷免(裁判官弾劾法第2条)の事由になりうるが、退職しているのでこれを行うのも無理。評議の秘密規定の制度趣旨は、裁判官の合議における自由な発言の保障であって裁判の威信を守ることではないが、合議は裁判の信用に深く関わるから、その内容を公表する発言は相当ではない。また、合議は、裁判官が常に良心に従い独立して意見を交わすことを基礎とし、これに基づき知識経験を補完して合議体としての裁判所の客観的な一つの意思にまとめ上げる仕組みであるから、裁判官の良心・独立に抵触することはないと考えられているが、少数意見の裁判官にとり良心・独立に反しとうてい看過できないとしたら、その評決に至る前に,回避(刑訴規則13条)などによりその合議体の構成からはずすよう求め、困難のときは、自ら退く(裁判官分限法第1条)ほかないように思う、ということである。

 しかし、有罪であれば死刑しかありえない重大事件において、病気などやむを得ない理由以外で合議体の構成からはずれることは、職務の放棄と見做されかねないし、そのような異例の事態は、判決前に結果を公表するに等しくなるのではないか。法律の規定上からはともかくとして、現実的にはあまり説得力はないように思われる。また、人命は地球より重いのであれば、無罪を確信した死刑囚の再審無罪に退官後に助力することも人道上許されるのではないか。この問題は難しいので改めて考えてみたいと思う。

 

 

弁護士のマーケティング

 一昔前と違って弁護士の人数が増えたことから、弁護士のほうから積極的に依頼者を誘引していかなければならない時代になっている。そこで弁護士も法律の知識だけでなく、マーケティングを勉強しなければならない。売れて儲かるロングセラーを生み出す名人である梅澤伸嘉氏によれば、ロングセラーを生むための3つの条件は、①買う前に欲しいと思わせる「商品コンセプト」と、もう一度買いたいと思わせる「商品パフォーマンス」が両立している商品は長く売れ続ける、②「強いニーズがあること」と「そのニーズを充たす手段がないこと」、この2つを充たす「強くて、未充足のニーズ」に商品が応えたとき、消費者は無条件でその商品を「欲しい」と思う、③新しい市場を創造した商品は、後発商品の100倍の確率で成功する、とのことである。

 この3つの条件を弁護士のマーケティングにおいて考えると、①相談してみたいと思わせる「わかりやすい専門性」と、依頼したいと思わせる「信頼性と納得」の両立、②相談したい問題がある時に、ちょっと相談してみようと思わせる案内窓口、③これまで議論されてきたことだけではなく、こういう新しい問題が起こったらどのように解決するか、あるいは、誰もが避けている問題をどう考えるかということをわかりやすく提示すること、というふうに考えてみたがどうであろうか。①と②は、誰もがインターネットなどの広告媒体でいろいろな形で模索しているが、まだまだ改善の余地はあると思う。③がわかりにくいが、要は誰もやっていないことを人に先駆けてやるということであろう。ある意味興味深い問題であるが、厳しい生存競争の時代になってきたものである。

同一労働同一賃金

労働人口の4割が非正規雇用といわれている。長期雇用の保障がなく、年収も200万円にも満たない場合もある。正規雇用である正社員との格差は歴然としている。同じことを同じだけやっているにもかかわらず、これだけの差がでるとすれば、それはなぜであろうか。正社員が、長時間労働、転勤移動、部署替えなどをなんらの異議なく受け入れているからであろうか。高度成長期であればこのようなことも言えたであろうが、世界的な低成長の現在にあっては、これだけの差を説明することは難しくなっている。そこで、同一労働同一賃金という考え方に基づいて是正しようとしているのであろう。しかし、職務給についてはこの原則があてはまるとしても、職能給についてどの程度妥当するかは問題である。職務給についても成果に差は出てくるが、職能給については、仕事の成果にかなりの差が出てくるからである。人事考課が必要となる所以である。したがって、厳密に言えば、同一価値労働同一賃金というべきであろうが、この「価値」の評価が難しく、人事考課をめぐっていつも問題となるものである。この「価値」の評価が客観的に適正に実施できるのであれば、同一労働同一賃金は意味を持ってくる。

 現在の正社員の賃金を基準に同一労働同一賃金という考え方に基づいて是正しようとすると、非正規雇用者の賃金を大幅に上げざるを得ないことになるが、そうすると全体の賃金コストが上がってしまい、企業の利益を圧迫することになる。全体の賃金コストを上げないで非正規雇用者の賃金を是正しようとすると、正社員の賃金をどのように組み替えるかということになる。働き方も多様になってきていることから、正社員の中でも多様性を持たせていき、いわゆる「限定正社員」を作って多様性を持たせることになる。新卒一括採用、年功序列、終身雇用という雇用慣行も見直す必要があることから、この機会になんらかの抜本的な対策を講じておく必要がある。

 最終的には、転職市場を活性化したうえで、解雇法制を緩和し、労働者と使用者が労働契約を明確化して、適度な緊張感を持って協働していかなければならないであろう。そのためには、労働者も使用者も日々スキルを磨いていかなければならない。

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